粉引(こひき)
粉吹、粉粧
粘土は鉄分が多いものを使います。
白い化粧土はカオリン質のもの。
釉は木灰を用い柔らかな感じの仕上がりです
粘土を使い分け質感を変化させます。
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■粉引とは
白化粧の歴史は古い。成形した器胎の上に白い土で化粧を施した技法は中東の古陶や中国の宋代のものにも見られる。
加飾に白泥を使うことは世界各地で試み利用されてきた。いかに白い器への願望が大きかったかにつきる。
化粧土そのものを細工して紋様としたり、白い肌合いを絵付けの下地には有効です。
粉引と呼ばれる技法は韓国朝鮮の李朝の時代の古陶に味わいの深い優品が伝えられています。釉調と形がよく合い、大陸的な渇いた寂しげな風のようなものをそれには感じます。
「粉吹き」とも称されまさに粉が付いているような風合だったのでしょうか。
■制作工程
右の写真はキメの細かい粘土。左は珪砂の混入した粗めの粘土。器胎の粘土の質により色合いや手触りが変わります。
白の発色は粘土に含まれる鉄分の量に影響されます。
生掛けをします。化粧掛けの後乾燥して素焼きをします。(750℃にて)
石粉と木灰で調合した釉を掛けて本焼です。(ゼーゲルSK8 ゆるい還元焼成) |
三島手(みしまて)
印花紋、花三島
粘土のきめは細かく鉄分は多い。
紋様が素地から淡く浮き出た感じに仕上げ。
白土は磁器質のものを使用する。
釉は粉引と同じ木灰合わせの透明釉です。
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■三島手とは
歴史的には15世紀、韓国朝鮮で発達した技法で李朝時代のもの。粉引と同様で後世わが国の茶人に賞用された。
「粉青沙器」と呼ばれ、ロマンの香に充ちたやきものです。
■制作工程
鉄分が多い素地で成形された器胎に印で紋様を押し、または箆(ヘラ)や櫛(クシ)で紋様を入れる。くぼみを白土で埋込むので象眼です。埋め込む作業は生素地でも素焼き後でも可能です。器の形状や、紋様の形態により選びます。
素焼き後のほうが素地の扱いは格段に良いのは確かです。私は器胎の状態を見て両方を使い分けていますが生素地への象眼が多いです。
紋様を素地から顕在化させるには、余分な白土を削り取ったり拭き取ったりして仕上げます。
その後素焼きをして灰合わせの透明釉を掛けて本焼に成ります。(ゼーゲルSK8 ゆるい還元)
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刷毛目(はけめ)
刷毛三島
素地は鉄分の多い有色のものを使用。
一気に器に乗せる感じで引き描きます。
白土は磁器質のものを使います。
釉は粉引と同じ木灰合わせの透明釉です。
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■刷毛目は
この技法は粉引とほぼ同じ歴史のようで李朝陶磁の特徴として発展したようだ。全体を白く蔽うのを簡略化し合理化の技法のようにも説明されているが、この技法のは「書」という文化を持っているゆえの発展ではないかと私は思います。
■制作工程
かなり鉄分の多い粘土を用い、糸尻を仕上げた後に白土を刷毛にて一気に塗りつける。
乾燥後素焼きを経て灰合わせの透明釉を掛けて本焼です。(ゼーゲルSK8 ゆるい還元焼成、または酸化焼成)
刷毛目用白土は特別のものです。粘性が強く素地の上でよく伸びることが必要です。程よいペースト状に管理しています。フノリは必要です。
これを餌にする天然の粘性土中菌にお世話に成りよく伸びる白土が出来あがります。昔からの知恵ですが、この仕事には粘性を出すバクテリァとの付き合いを抜きには出来ません。使用する刷毛は稲穂の芯を束ねた自家製です。
乾燥後素焼きをして本焼と成ります。(ゼーゲルSK8 ゆるい還元)
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青磁(せいじ)
素地は磁土または陶土。
木灰釉を基本とし鉄分を添加して釉色を整える。
細かい気泡が釉中にあり柔らかい釉面。
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■青磁について
歴史は古く各地で焼かれ中国の宋の時代から始めても膨大な研究書や資料が存在します。
青磁の器と技法に関する専門書は沢山出ています。
その一冊に古い本ですが「古陶磁の科学」というのがあります。これは釉薬中の鉄分ことが詳しく、興味が尽きません。
青磁釉と便宜上分類しましたが、私のこの釉はとても基本的には灰釉です。木灰約20〜30パーセントに長石、陶石、珪石さらにはカオリンなどの石粉を配合して珪酸鉄で釉色を整えました。
少量ですがバリウムや酸化錫も使い粉引などに使う透明釉に比べると少し複雑です。
珪酸分の多い配合にして釉薬に肉付けをして厚みをもたせます。流下の激しい薄い釉では青磁釉にはなりません。
■器胎による色合いの差
上図で左は磁土、右は陶土。陶土のほうは緑色が濃くなり貫入が出る。
■制作工程
素焼後、釉掛けは厚く掛けます。底面の釉薬は丁寧に拭き取り仕上げ、そして本焼と成ります。(ゼーゲルSK8 強還元)
焼成は還元炎で焚きです。釉中の微量の鉄が還元され青く発色をします。鉄が出す色ですが釉薬の調合、素地の違い、窯焚きなどで
微妙な違いがでてきます。この魅惑的な迷宮をさまよっています。 |
伊羅保(いらぼ)
釉薬は木灰分の多い調合です。
赤土に木灰を掛けただけでは不安定なので長石やカオリンと酸化第二鉄で釉薬としての調合しています。
灰は両親が何十年と焚き続けた風呂釜の残灰で杉、檜、松、雑木が混じり樹種は判らない。
いわゆる土灰(どばい)です。
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■伊羅保について
韓国朝鮮のやきものでは古くから作られてきたらしい。茶碗として残っているのは江戸時代の茶人たちが注文をして作らせたものだ。
鉄分の多い素地に釉薬が薄くかけられていて釉薬の厚さや火の当たり加減で焦げ目のような素地が出たり、黄色の釉調になったりする。変化が多く面白い釉薬です。焼き上がりは不安定です。
■木灰は珪酸を熔かす重要な熔融材料です。しかし、木灰だけだと1200℃などでは熔けません。熔かせるものが必要で、それが珪酸分を含んだ器胎ということです。取り付く器胎がないと釉薬にはなりません。かなり異質の釉薬と言えます。
釉調から分けるとマット釉そのものです。
■素地としては
鉄分が多く砂目の土がいい雰囲気に焼きあがります。
■制作工程
素焼き後、釉掛けは釉薬の厚みに気をつけながらかけ、焼き上がりの釉調に変化を出させる。コンプレッサーの登場に成ります。本焼ですが、黄色にもってゆくのなら酸化焼成。焦げ目を付けハードな感じなら還元焼成でしょうか。器形を考え選択します。
(ゼーゲルSK8) 灰を使ったのが灰釉と呼ぶのならこれは灰釉中の灰釉だと思います。 |
辰砂(しんしゃ)
素地は磁土です。
鮮明かつ透明感のある紅色に焼き上げる。
釉薬は石粉と木灰を基本として調合します。
着色剤は微量添加した炭酸銅です。
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■辰砂とは
やはり古くから中国で始まりそこで発展して完成を見た魅惑的な釉薬としか言いようがない。
釉薬に含まれた微量の酸化銅が還元され紅釉となるのだがこれは釉薬の組成、焼成の情況により発色は無限にある。
淡いピンクから紫や青磁に近いものまで沢山あります。
辰砂釉には呼び名がそれぞれ与えられ私など覚えきれるものではない。
このことはいかにかの地の人々が辰砂という焼き物を細やかに観賞して愛していたかという歴史的な事実そのものです。
私は透明感があって血のような紅釉を目的にしています。
木灰の能力を最大限引き出し釉薬中には燐酸分の気泡でよりよい発色環境を整えます。
必要な鉄分も木灰から得ます。炭酸バリウムと酸化錫は大切な釉材料です。
少量適量確実に加えないとこの釉薬はうまく目的に達してくれません。勉強中の頃、少量添加する釉薬を「鼻くそ薬」と例える人がいました。
富山の万金丹みたいですが「鼻くそ薬」とはよく言ったものでこれの扱いと窯焚きの技術がいい辰砂を出す術かと思います
右のカップの青藍色のところは酸化チタンです。酸化銅と高温で反応するとコバルトのような色を出すこともありました。
15世紀の頃中国は景徳鎮で焼かれた辰砂の器が好きです。その頃のものに「紅釉暗花雲紋」と呼ばれているものがあります。字のごとく釉薬の下に紋様が彫られて深い紅釉の下にほのかに見えるという幻想的な技法です。
■釉薬は長石、陶石、などに石粉木灰の合わせです。それに炭酸銅や鼻くそ薬を入れます。
■素地は磁土です。
■制作工程
750℃で素焼き後釉薬は厚掛けをして焼成(ゼーゲルSK8 還元焼成)
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白化粧土と黒化粧土の組み合わせ
黒化粧の色合いはナス紺。
黒白の対比とバランスで味わいの深いものに
成ります。
顔料と磁器質の化粧土を合わせてミルにかけます。酸化鉄だけではナス紺になりません。
コバルトなどが必要になります。
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■制作工程
黒化粧土は白化粧と同じ扱いで生素地に化粧をかけます。表面の処理、つまり肌合いを考慮して柚子肌にしたり、刷毛で塗ったり、その上をヘラで引っかいたりして紋様を付けます。
素焼きをして薄い透明釉を掛けて本焼。(ゼーゲルSK8 酸化焼成)
酸化金属が多い調合なので焼きすぎるとギラギラ感が出たり、釉薬と反応して釉薬の一種と成り化粧土としての味わいは無くなります。白い粉、黒い粉が降りかかり焼きついたようなやきものに仕上げたい。 |